( 191 ) ムナ虫の症に対して

 蛔虫が口より出でしとき、クサギの虫を黒焼きとして喰べさされしこと一度あり。出入りの大工の人にされしことなりき。

( 192 ) 歯痛のマジナイのこと

 老婦(とり上げ婆)、よくナガナタ持ちて呪文をとなへつつ、まじなってくれ、終わりにフッと息を吹きかける。それで歯痛が止まったことを覚えてゐる。また我老母は、便所の入口に釘を打って、「唾吐きません」と、まじなってくれた。

注- ナガナタとは「長鉈」である。歯痛に鉈や釘など金属が関わっていることがおもしろい。釘の尖った部分で痛む患部をおさえて、まじなってもらった記憶のある人も多いことと思う。

( 193 ) 鼻出血のときには

 後頭下部の髪を引っ張りくれて、頭を2~3度後へ曲げさせしものなり。

( 194 ) 湿疹に対しては

 一つ葉と称する一幹一葉の7~8寸のものを黒焼きとし、油にて練り患部につけしものなり。

( 195 ) 火傷はかくして

 女陰か、その腰巻きにくるむがよしとせしあり。理なきに非ずも八分までは火の神の傳説を信仰的に永く傳へしと見えたり。

( 196 ) 傷と小便のこと

 傷を受けし場合、小便にて洗ふ。これは理あり。化膿菌はゐないし(普通は)、またエスキモー人がアザラシ肉など貯へるとき、小便にて洗ふと云ふ。有害菌を去る故なり。

( 197 ) ム力ジにくはれしとき

 鶏の糞をつけて鶏の鳴眞似したり。之は鶏はムカジを喜び喰ふ癖あるを利するものなり。

注- ・ムカジはムカデ(百足)のこと。村内では鮎をアイ、蓬をヨゴミと発音する人が多い。

( 198 ) 刃物にて失神の者をひくこと

 失神せる者を助ける手段として揺り動かし、大声にてわめく。そして灸、なるべく皮膚の厚いところ、足の裏あたり。幼年児はカミソリを紙にて巻き、1cmより3cm位の長さにして、主として背部、臀部を軽く引き採血せしものである。

( 199 ) 魚骨の喉にたちしとき

 飯を丸呑みにしたりする。茶碗に水を入れ、「二見ケ浦の鯛の骨、流して宮川の水」と云ひ、グッと一息に飲んだりしたものである。

( 200 ) 人工呼吸と我ら子供のとき

 水禍にかかりし者を引き揚げ、逆さまとなし、水を吐かせ、腹も胸もメチャメチャに人工呼吸をやりしものなり。