(九) 助動詞の十津川言葉

 

(11)丁寧の助動詞の十津川言葉

(イ)丁寧の助動詞の使い方

私は知りませ
私もまいりましょ
私も行きました
私もいきます
行きますればわかります
行きます時はお知らせ下さい
早く来て下さいませまし

上の下線をひいた語が丁寧の助動詞で、人を尊敬して丁寧にいう時つかうのである。

(ロ)十津川に於ける丁寧の助動詞

十津川ではこんな丁寧な言葉は普断あまり用いない。最近は目上の人や他郷の人と会話する時、よそ行きの言葉とか、とっときの言葉とかいって少しは用いられている。
上の例にあげた言葉を十津川言葉に直してみると次の如く云う。

おれは知らん
おれも行こう
おれも行[い]た
おれも行く
いたらわかる(行きゃーわかる)
行くときゃー知らしてよ
早う来てくれーよ

以上の如く十津川人は丁寧な言葉をつかわない。十津川人というのは素朴で淡白で、上手を言わない。然し真実のある人間で一度口に出した以上は必ず実行するものが多かった。

 

(12)比況の助動詞の十津川言葉

(イ)比況の助動詞の使い方

彼のほおはリンゴのよう
彼はまじめなよう
彼のような人は学生の模範である

上の下線を引いた言葉はすべて比況の助動詞である。
a は他にたとえていう意味を表し、b は不確実な断定の意を表し、また c は例示に用いられている。

助動詞 未然 連用 終止 連体 仮定
う、に続く た、ある、なる、に続く 言いきる 時、こと、に続く ば、は省略する
飛ぶ ようだ だろ だっ

なら
正しい ようだ だろ だっ

なら
きれいな ようだ だろ だっ

なら
ようだ だろ だっ

なら

仮定形は「ば」に連なるのがたてまえであるが「ようなら」と「ば」が省かれる。

(ロ)比況の助動詞の十津川言葉

十津川に於ては「ようぢゃ」とつかい、活用は次のようになる。

助動詞 未然 連用 終止 連体 仮定
う、に続く た、なる、に続く 言いきる 時、こと、に続く ば、は省略する
飛ぶ ようぢゃ ぢゃろう ぢゃっ
ぢゃ
なら
正しい ようぢゃ ぢゃろう ぢゃっ
ぢゃ
なら
きれいな ようぢゃ ぢゃろう ぢゃっ
ぢゃ
なら
助詞 ようぢゃ ぢゃろう ぢゃっ
ぢゃ
なら

十津川では終止形を「ようぢゃ」とつかうが、中には「ような」と連体形と混用する人もある。仮定形に於ても「ようなら」を「ようぢゃったら」という人もある。

(13)様態の助動詞の十津川言葉

(イ)様態の助動詞の正しい使い方

天気がくづれそうだ
このへやは暑そうだ

上の「そうだ」という言葉は様態の助動詞で、そういう様子とか、そうなる様子だ、という意味、即ち様態を表している。

助動詞 未然 連用 終止 連体 仮定
う、に連なる た、ある、なる、に続く 言いきる 時、こと、に続く ば、は省略する
くづれ そうだ ろう だった

なら
そうだ ろう だった

なら

様態の助動詞に於ても仮定形は「ば」を省く慣習になっている。

(ロ)十津川に於ける様態の助動詞

十津川に於ては「そうぢゃ」を用いる。活用は様態の助動詞と同様であるが、終止形と連体形は何れも「そうな」と「そうぢゃ」を混用し、仮定形では「そうなら」と「そうぢゃったら」と両方つかう。

 

(14)伝聞の助動詞の十津川言葉

(イ)伝聞の助動詞の正しい使い方

今日は運動会を中止するそうだ
病気はよいそうで安心です

上の「そうで」「そうだ」は伝聞の助動詞で他から伝え聞く意味を表している。その活用は次の如くである。

助動詞 未然 連用 終止 連体 仮定
う、に連なる た、ある、なる、に続く 言いきる 時、こと、に続く ば、は省略する
中止する そうだ そうで そうだ
よい そうだ そうで そうだ

伝聞の助動詞は上の表の如く連用形と終止形とがあるだけである。

(ロ)十津川に於ける伝聞の助動詞

十津川に於ては終止形では「そうぢゃ」「そうな」を用いる。
また比況の助動詞と混同して用いる人も多いようである。