世界遺産登録へのキーワード ~文化的景観~

 「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録に向け、キーワードとなっているのが「文化的景観」という聞き慣れない言葉です。その意味するところは「自然と人間の営みによって形成された景観」というもので、一般的な文化財の枠組みを超えた、幅広い内容を含んでいます。
 例えば、草木や泉水を配置した「庭園」や「公園」、幾世代にもわたって山の斜面に造成されてきた「棚田」、ワイン銘醸地の「ブドウ畑」の風景などは、典型的な「文化的景観」の一つです。
また、山や樹木なども、「霊山」や「神木」として特別な価値が与えられると、「文化的景観」に仲間入りすることになります。
 紀伊山地の霊場もその一例で、古くから神々が宿る所として崇拝されてきた山々が、新しく渡来した仏教の影響のもと、宇宙や自然の中にひそむ神秘的な力を身につけるための山岳修行の場となったものです。同様に参詣道も、そこを徒歩で進み自然との接触を重ねること自体が、すでに修行でした。つまり「紀伊山地の霊場と参詣道」は、単なる社寺と道ではなく、あくまで「山岳信仰の霊場と山岳修行道」なのです。
 これらの「文化的景観」を守っていくためには、単に神社や仏閣など文化財として指定されているものを保存すればよいというのではなく、基盤となっている自然もまた良好な状態で維持する必要があります。