「ノ」

……ノー 〔感〕①……だね。言葉の終わりにつけて「なあ」の義で、同意を求める気持ちも込められている(竹筒など北山川筋)。 ②呼び掛けの声。 →ノシ
ノー
(野)
①〔農〕入会の採草地(上葛川・田戸・竹筒)。竹筒では、ノーカリバという。
※ノーノクチアケ 共有採草地の口明け(田戸・上葛川)。 →ノヤキ 谷瀬では、採草地をノサンというが、大字有、個人有によってチカノ、トオノと区別する。 ②〔感〕呼び掛けの言葉。
ノーカリバ
(野苅場)
〔農〕ノーともいう。ジゲ有の採草地。個人有の採草地はカリバ(竹筒)。
ノーヅチ
(野槌)
〔怪〕槌の子のような太短い(想像上の)蛇。今西では、天上森に居るといい、宇宮原でも対岸の大八(オオハチ)に「大八太郎」(オオハチダロウ)と呼ばれるノーヅチがいるという。 →ノヅチ
ノーテ 〔狩〕シシ、シカ、ウサギなどが決まって通る径(出谷)。ノテ、ノーテン、ハシリともいう。
ノーテン 〔狩〕獣道[けものみち](西中・小坪瀬・上湯川)。
ノーラ 〔感〕のう。①呼び掛けの声。もしもし。 ②言葉の終わりにつけて「なあ」、「のー」、「そうじゃノーラ」。相手に同意を促す気持ちも含まれている。ノラともいう。十津川言葉の典型である。北山筋では「ノー」、下流の本宮町請川方面では「ナイ」、五條市では「ナーエ」。
ノウ
(綯う)
①〔名〕能率、調子、具合。 ②〔他〕(縄など)なう。
ノウシロ 〔農〕苗代(上湯川寺垣内)。
ノウシロダ 〔農〕(苗代田)苗代(上湯川寺垣内)。
ノウダテ
(農立て)
〔信・農〕トウダ(ミヤダ)の田植えの儀。一般はこの日まで田植えが出来なかった(玉置川)。
ノウテン
(脳天)
〔体〕頭の天辺(串崎・那知合)。
ノウドコ 〔農〕苗床。苗代。ナエシロともいう(内原)。
ノウナシノセックバタラキ
(能なしの節句働き)
〔言〕(今西)。
ノオラギ 〔動〕カジキ。トンボシビとも。
ノキサキジュブツ
(軒先呪物)
〔住〕鉈[なた]の一つ(杉清)。
ノキテン
(軒天)
〔住〕軒天井(谷垣内・玉置川)。 →ノキテンジョウ
ノキテンジョウ
(軒天井)
〔住〕屋根を強風で吹きまくられぬため、軒のウチオロシ(キリガクシ)の蔭の庇裏に水平に張る天井。谷垣内ではノキテン。
ノキバ
(軒端)
〔住〕軒先(上湯川・上葛川)。
ノグ 〔他〕尖らす(竹筒)。
ノケクジ 〔林〕伐採の担当地区をクジワケする際、ノケクジとてクジを一本余分に作っておいて、早く仕事を終えた者が、それに掛かり、済んだ者から、そこを手伝って一緒に帰れるようにする(字宮原)。
ノコ 〔林〕鋸。
ノコギリガマ
(鋸鎌)
〔農〕イネカリガマ。比較的新しく入って来た(上葛川)。
ノサン
(野山)
〔村・農〕採草地。在所からの距離によってトオノ(遠野)(個人有)とチカノ(近野)(大字共有)の別があった。一等地から四等地まであり、一等地は狭くても良いクサが多かった(谷瀬)。
ノシ 〔食〕のし餅(東中)。
……ノシ 〔感〕……だね(北山川筋・新宮・阿多和付近も)。
ノシャバル 〔自〕えらそうな振る舞いをする。
ノジュク
(野宿)
〔林・狩〕
ノシロダ
(苗代田)
〔農〕苗代(玉置川)。
ノス 〔他〕伸ばす。「腰をノス」。
ノズク 〔他〕覗く(平谷)。
ノスト 〔言〕盗人(上葛川)。
ノゾキ 〔遊〕のぞきからくり。
ノゾキアナ
(覗穴)
〔林・炭〕炭窯の燃え加減を覗く穴。特に伝承なし。
ノタバル 〔自〕倒れる。ころがる。ノタルとも。
ノタル 〔自〕→ノタバル
ノタレル 〔自〕やられて参る。路傍にのたれ伏す。泥酔して路上に倒れる(字宮原)。地辷りにもいう。
ノチノモノ
(後物)
〔産〕後産。胞衣。アトザン、エナとも。コウクソガミ(楮糞紙)や古いグサラ(ぼろ布)に包んでカラウスのフミジリに埋めた(内原)。 →ユツボ②
ノッチ
(野槌)
〔怪〕ノーヅチに同じ(小坪瀬・今西・上葛川・神下下葛川・小原・武蔵)。小原でも、昔は見たとか捕らえたとかいう話があった。
ノテ 〔狩〕獣の通い径(上葛川・田戸)。 →ノーテ
ノデワラ 〔農〕田植えの際、苗束を括る藁。この藁の輪の中へ苗を植え込むと凶(重里)。
ノドウグ
(野道具)
〔農〕農具の総称。山道具に対していう(玉置川)。
ノドヒカリ
(咽喉光り)
〔動〕ヤマカガシか。上湯川ではシバハジキ、松柱ではクソグチナワ、今西・小山手はニシキヒビ。上葛川・田戸・旭・玉置川はノドヒカリ。
ノドブエ 〔体〕咽喉[いんこう]。
ノドマメ 〔体〕口蓋垂[こうがいすい]。ノドチンコとも。
ノナタ 〔林〕
ノバシ 〔農〕牛の後ろのシリガエシと鋤や木馬の先とを結ぶ綱(田戸)。
ノビル ①〔自〕疲労困憊[こんぱい]。 ②死ぬ。 ③〔食〕野蒜[のびる]。ユリ科の多年草。食用。村内ではヒル、ビルという。
ノフウズ 〔形〕野放図。粗野。大胆。横着。「あの男 まっことノフウズな奴じゃのーら」。
ノブトイ
(野太い)
〔形〕図太い。大胆な。横着な。
ノベ ①〔筏〕カリカワの時、川が詰まった際に、このツマリをヌク専門の人夫。一本丸太に乗っていった。ノベニンプともいう(宇宮原)。 ②〔葬〕(野辺)野辺の送り。ノベオクリともいう。
ノベオクリ
(野辺送り)
〔葬〕野辺の送り。ノベとも。
ノベニンプ 〔筏〕ノベ①に同じ。
ノボズナ 〔形〕野放図な(平谷)。
ノボセル 〔自〕頭(気)が変になる。
ノボリカブ 〔動〕3cmくらいの小さなガブ(鮴)で、縞があり、春先になると帯状に列をなして瀬をノボル。食用とする(田戸)。
ノミノシンガツ、カノゴガツ
(蚤の四月、蚊の五月)
〔動〕蚤は4月、蚊は5月から出初める(旧暦)(谷垣内)。
ノヤキ
(野焼き)
〔農〕ノー(カリバ)の草の成長を促進し、雑木の徒長[とちょう]を防止するために焼くこと(山天・松柱・旭・玉置川)。松柱では、若水汲みに使ったマツダイ(たいまつ)の燃えさしを長押へ上げておいて、ノヤキの点火に用いれば、火がアマラン(延焼せぬ)という。
……ノラ 〔感〕……ノーラに同じ。 →ノーラ
ノラス 〔他・林〕辷[すべ]らす。スラで出材する時、スラに水を掛けて滑りを良くすることにいう。「辷る」はノレルという。
ノリ ①〔筏〕(乗り)筏の一送り分。ハバともいう。 →ヒトノリ ②〔動〕ウナギの肌などのぬめり(神下下葛川)。
ノリザキ
(乗り先)
〔筏〕二ハバの筏をやった場合、先を突き出してサキノリの乗るサキトコをいう。隣の少し下げた一ハバをチガイザキという(田戸)。
ノリダシ
(乗り出し)
〔筏〕筏の発航。セギ(鉄砲堰)のトマエにサカキやお神酒を供え、水神を祭ってから出発する。 →ハツノリノイワイ
ノリツケホーセ
(糊付け干せ)
〔動〕フルツク(梟[ふくろう])の鳴き声。好天の予兆(串崎・那知合)。 →フルツク
ノリテ
(乗り手)
〔筏〕筏の末尾に乗る人。
ノリノキ
(糊の木)
〔植・製〕ニレ(楡)。その皮から紙漉き用の糊をとった(出谷)。
ノリハバ 〔筏〕シモノリの筏の一番長い列。チガイハバ(モヤイハバ)に対していう。(田戸・込之上)。
ノリヒキ
(糊引き)
〔動〕ナメクジ。糊状の這い痕から(『全国方言辞典』)。マメクジリ、マメクジラともいう。
ノル 〔自〕伸びる。「足がノラン」=足が伸びない。伸ばすはノスという。
ノレル 〔自〕辷る。「橇[そり]でノレようらい」=橇ですべろう。辷[すべ]り落ちる。「辷らす」はノラスという。