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敬語は美しい言葉で人を敬い人に好意を与えるものである。
然し幾度も述べた如く十津川に於ては日常生活に恐らく敬語を用いなかった。
改まって挨拶したり、或は特に地位の高い人と話す時は幾らか用いられた。
次に十津川に於いて用いられる敬語についてあげてみよう。 |
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お |
…… |
お気の毒 葬儀の時か病気見舞の時ぐらい聞いた。
お前 いつでもどこでもつかわれてきたが現代では敬語意識はなくなっている、中には「お前さん」という人がある。 |
ご |
…… |
ご丁寧、人から御中元か御歳暮の品でもいただいた時つかった。
ご縁、結婚式の時につかわれた。
ごめん、ごめんはよくつかったが「ごめんよ」といって「下さい」はつけなかった。 |
さん |
…… |
正夫さん、こんな言葉は時たまきいたがめったに聞かれなかった。殆んど名前だけの呼びすてであった。 |
様 |
…… |
神様、ほとけ様だけはどこでもだれでもつかったが、その他はきかなかった。
貴様、この言葉は以前よくつかわれたが最近は殆んどつかわない。この言葉は今は敬語意識がなくなり、かえって人を馬鹿にする時つかう言葉である。 |
貴 |
…… |
貴殿、私どもが子供の頃老人の方がよくつかっていたが、今ではきかれなくなった。 |
殿 |
…… |
太郎殿、以前年よりの方がよくつかったが今ではあまりつかわない。 |
先生 |
…… |
学校の教員だけに用いられてきた言葉で、「先生」は教員の代名詞くらいに思われていた。 |
氏 |
…… |
斉藤氏、こんな言葉は以前よくきいたが今では全くきかれなくなった。 |
お-さん |
…… |
お嫁さん、結婚の時くらいたまにきいた「よめんきたわ」と云ってめったにはきかれなかった。まして普断はつかわなかった。
お父さん、おかあさん、と父母を呼ぶのも極く最近で以前は「おとよ」「おかよ」と呼んだ。叔父さんや叔母さん、或は兄弟姉妹に対しても、叔父よ、叔母よ、兄[にい]よ姉[ねえ]よと呼んだ。 |
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あなた |
…… |
あなたといわずに「あんた」といった。中には、それに「さん」をつけて「あんたさん」という人がいた。然しこの言葉もあまりきかれず、たいていは、「お前さん」であった。 |
いらっしゃる |
…… |
こんな言葉は一度もきかなかった。たまに「おらっしゃるかい」という言葉をきいたが「おるかい」「おるぜ」の方が多かった。 |
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私、僕 |
…… |
最近は大分つかわれているが、未だ「おれ」が多い。 |
いただく |
…… |
神様のお札を頭にのせられ「さあいただけ」といわれたり、人からお年玉でももらう時少々用いられたが、その他あまりつかわれなかった。
物を食べる時は全然つかわず、ただ「よばりょう」といった。 |
参る |
…… |
神様にお参りする以外はあまりきかれなかった。 |
拙者、小生 |
…… |
この言菜は老人の方などでよくつかう人があったが、今ではきかれない。 |
いたす |
…… |
この言葉は時たまきいた。 |
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お |
…… |
お茶、「まあお茶とらっしゃれ」と時々きくことがあった。
おみき、お洒、この言葉はよくきいた。おみきは神様にお供えする時きかされ、お洒はおしゅと云って正月のかどわけの時にきいた。
おみやげ、「みやぎょーもろうた」といって「お」をつけることはめったになかったが、時にきくこともあった。 |
ご |
…… |
ご祝儀、話す時には祝儀といったが、差出す紙には御祝儀とか御祝と書いてあった。
ご飯、今は殆んどご飯というが、以前は「めし」「麦めし」といって、丁寧な言葉はつかわなかった。 |
ございます |
…… |
この言葉は時々きいたが、ますを省いて「ござる」という人があった。 |
ます、です |
…… |
この言葉も時々きく程度であまりきかなかった。 |
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以上の如く十津川に於ては日常会話に恐らく敬語を用いなかった。
これは一面から考えるとお互が上下の差別がなく親しみがあるという美点からであろうが、古来より交通不便なため他郷の人と交わりがなく社会的に洗練されていない素朴な人間であったこともうなづかれる。
最近小学校などでも児童達が友達の名を呼ぶのに敬称を用いるようであるが、ここ十数年前までは呼びすてにしていたものである。
最近十津川も全国的に認められ観光客も入り込んで来るようになり、昔のままの素朴的な人間であるわけにはいかなくなってきたのと、テレビの普及や人々の読書力の向上等によって敬語も次第につかわれるようになってきた。今後もこの敬語が一層普及されることを願うが、村民の昔ながらの無差別な親しみと、口先だけの上手でなく真心を失わないことを切望するものであります。 |
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