十津川探検 ~十津川言葉~
(十)補助用言の十津川言葉
(2)補助用言の十津川方言
(a) とる(とーる)
兄は仕事をしとる(とーる)
客が来とる(とーる)
母は買物に行とる(とーる)
 上の「とる(とーる)」は「ている」という意味の語である。これは teiru の i が脱落して teru となり、それがまた e が o に変化して toru となったものであろう。
(b) よーる
太郎は本を読みょーる
弟が走りょーる
客が来よーる
 英語の文法に進行形というのがある。
例えば「来ている」という言葉は coming と come に ing をつける。この ing に相当する言葉が「よーる」である。
(c) とく、とこう
しるしをつけとく
手紙を書いとく
本をよーどこう
仕事をしとこう
 上の「とく」「とこう」は「ておく」「ておこう」と言う言葉である。これは teoku の e が脱落して toku となったものであろう。
(d) たる、たろう
おれが持ったる
仕事をしたる
おれが話したろう
柿をとったろう
 上の「たる」「たろう」は「てやる」「てやろう」という言葉である。これを丁寧な言葉でいうと「てあげる」である。然し十津川ではそんな丁寧語はつかわれない。「仕事をしてやる」といい、これをつづめて「したる」とつかう。
 これは siteyaru の ey が脱落して sitaru となったものであろう。
(e) ちゅう
浦島太郎ちゅう人がいたちゅう
北方ではもう雪が降ったちゅう
 上の「ちゅう」という言葉は「という」という意味である。
 この「ちゅう」と云う言葉は大和時代に盛んにつかわれ、奈良時代まで続いた。其の後「とふ」「てふ」と変化し、現在は「という」とつかわれている「ちゅう」と云う古い言葉が十津川で残って今もつかわれているのである。これは toyu の o が脱落して tyu となっていたものであろう。それが復活したものか。
(f) たーる、たーろう
貯金したーる
おれが話したーる
注意したーろう
 上の「たーる」「たーろう」という語は「てある」という意味である。丁寧な言葉では、「てあります」というが、十津川では普断あまりつかわれなかった。
(g) うなあ、ていい
面白うなあ
正しうなあ
涼しゅうていい
軽うていい
 上の「うなあ」「ていい」は補助形容詞で「くない」「てよい」という言葉である。
(h) てくれー
早く来てくれー
仕事をしてくれー
 上の「てくれー」という言葉は「て下さい」という意味である。
 

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