十津川探検 ~十津川言葉~
(九)助動詞の十津川言葉
(10)過去及び完了の助動詞の十津川言葉
(イ)過去及び完了の助動詞の正しいつかい方
   冬が去っ
   大工が家を建て
 上の「た」は過去または完了の助動詞である。「冬が去った」の「た」は普通私どものいう過去を表し「家を建てた」の「た」はことがらが完結した意味を表している。
 この「た」は動詞、形容詞、形容動詞、及び助動詞の連用形につく語である。
 例 私は運動し 動詞につく
あの花は美しかっ 形容詞につく
昨日は暖かだっ 形容動詞につく
字を書かせ 助動詞につく
 この「た」が五段活用動詞のが行、は行、ま行、な行の連用形につく時は「だ」となる。
 例 泳いだ が行
飛んだ ば行
死んだ な行
読んだ ま行
「た」の活用は次の如し
品詞 未然 連用 終止 連体 仮定
う、に連なる た、ある、に続く 言いきる のに、に続く ば、は省略する
動詞 運動した たろ たら
形容詞 楽しかった たろ たら
形容動詞 暖かだった たろ たら
助動詞 書か たろ たら
ま行動詞 読んだ たろ だら
 過去及び完了の助動詞「た」も仮定形「ば」に連なる時、「ば」を省略する。
(ロ)過去及び完了の助動詞の十津川言葉
 十津川に於てはこの過去及び完了の助動詞が動詞につく時、動詞の語尾が変化することは先に述べた。
 例 泣いた なあーた
飛んだ とおーだ
 未然形「たろ」は十津川では「つろ」となり「だろ」は「づろ」となる。
 例 走ったろう 走っつろう
行ったろう 行っつろう
楽しかったろう 楽しかっつろう
静かだったろう 静かぢゃっつろう
飛んだろう とぉーづろう
読んだろう よぉーづろう
 十津川に於ては過去及び完了の助動詞の「た」が、打消の助動詞「ない」の連体形につく時「なかった」となるべきを「なんだ」とつかうことは打消の助動詞のところで述べた。
 然し「た」が形容詞の「ない」の連用形につく時は「なかった」と普通につかう。
 例 走らなかった 走らなんだ
飛ばなかった 飛ばなんだ
面白くなかった おもしろーなかった
楽しくなかった 楽しゅうなかった
 

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