十津川探検 ~十津川言葉~
(九)助動詞の十津川言葉
(6)打消の助動詞の十津川言葉
(イ)打消の助動詞の正しいつかい方
   雨が降らない
   試験が受けられない
 上の「ない」は打消の助動詞で動詞や助動詞の未然形について打消の意味を表し、次のように活用される。
動詞 助動詞 未然 連用 終止 連体 仮定
う、に続く た、なる、に続く 言いきる 時、こと、に続く ば、に続く
降ら ない なかろ なかっ
なく
ない ない なけれ
受け られない なかろ なかっ
なく
ない ない なけれ
 上の外に打消の助動詞には「ず」「ぬ」「ね」「ん」がある。
   危険な所に行かようにしなさい
   何もいわにいる方がよい
   身のふり方をきめばなりませ
(ロ)打消の助動詞の十津川言葉
 十津川に於ては「ない」と云う語より「ん」の方が多くつかわれる。
 連用形の「なかった」は「なんだ」とつかう
 例 行かなかった 行かなんだ
来なかった 来なんだ
 この「なんだ」は室町時代から江戸時代にかけて盛んに用いられた言葉である。江戸末期になって「なかった」という言葉に変わったが十津川では今でも盛んにつかわれ方言となって残っている。
 仮定形の「なければ」は十津川では「にゃー」とつかっている。
   行かにゃーならん
   来にゃーならん
 今、「行く」と云う言葉を十津川方言でどんなにつかうか書いてみよう
十津川言葉 正しい言葉
・行かんぢゃろう 行かなかろう
・行かなんだ 行かなかった
・行かんようになった 行かなくなった
・行かん 行かない
行きません
・行かんときゃーなあ 行かない時はない
・行かにゃーならん 行かねばなりません
(ハ)形容詞の「ない」と打消の助動詞の「ない」
   この時計は新しくない
   この時計はくるわない
 上の言葉を十津川言葉に直すと
   この時計は新しゅうなあー
   この時計はくるわ
 同じ打消の意味を表す言葉であるが、一方は「なあー」となり、一方は「ん」となる。これはつまり同じように見えて性質が異なるからである。前の「ない」は形容詞で、後の「ない」は助動詞である。形容詞の方には「新しくもない」と「も」を入れることができるが助動詞の方には「くるわもない」と「も」を入れることができない。
 十津川に於ては形容詞のないは「なあー」とつかい、助動詞の「ない」は「ん」とつかう。
 

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