十津川探検 ~十津川言葉~
(九)助動詞の十津川言葉
(4)可能の助動詞の十津川言葉
(イ)可能の助動詞の正しいつかい方
   歩いて十分で行かれる
   僕も来られると思う
 上の下線を引いた言葉が可能の助動詞である。可能の助動詞は動詞の未然形について「できる」という意味を表す。可能の助動詞のつかい方は受身の助動詞と同様である。ただ可能の助動詞には命令形がないのが異なる。
(ロ)十津川言葉と可能の助動詞
 十津川に於ては可能の助動詞はあまり用いないで、可能の意味を表す動詞が多くつかわれる。
 可能の動詞は五段活用の動詞を下一段活用の動詞にすればよい。
 例えば「歩く」という動詞は五段活用の動詞であるが、これを下一段活用の動詞にすれば次の如くなり、可能の意味を表す。
  歩けよう 歩けない 未然形
歩けます 歩けた 連用形
歩ける   終止形
歩けること   連体形
歩ければ   仮定形
 可能の動詞にも命令形はない。
 然し十津川に於て可能の動詞をつかう時、上のように正しくはつかわない。前に動詞の十津川言葉について述べた如く、可能の動詞の場合も同様下記のようにつかわれる。
  歩きよう 歩けろう 歩けん 未然形
歩けりゃー     仮定形
 尚十津川に於ては上一段活用の動詞や下一段活用の動詞及びカ行変格の動詞にでも「れる」をつけて可能の意味を表す。
 例 起きれる 見れる 上一段動詞の未然形につく
植えれる 投げれる 下一段動詞の未然形につく
来れる   カ行変格動詞の未然形につく
 この「れる」は動詞の語尾とみるか、助動詞とみるか、甚だ不可思議である。
 これを動詞の語尾とみれば「起きれる」「見れる」「植えれる」「走れる」は皆下一段活用の動詞とみなければならない。こんな動詞はあまり見受けない。殊にカ行変格活用の動詞は「来る」が一語で「来れる」というように下一段に活用することは未だかつて聞かざるところである。
 若しこの「れる」を助動詞とすれば「れる」は五段活用の動詞か、サ行変格活用の動詞の未然形につくのがたてまえである。さすればこの「れる」は助動詞とみることは不自然である。要するに十津川に於てはかくの如き不可思議な言葉がつかわれているのである。
 次に十津川に於てはサ行変格の動詞の未然形に「れる」がついて可能の意味を表す場合に普通は「運動される」と「さ」につくのがたてまえであるが、「運動しれる」と「し」につける人もある。
動詞 助動詞か語尾 未然 連用 終止 連体 仮定
よう、ない、に続く ます、た、に続く 言いきる 時、こと、に続く ば、に続く
起き
来[こ]
運動し
 
れる
 
れろう
りょー
れん
 
れた
 
 
れる
 
 
れる時
 
 
れりゃー
 
 

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