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もう百年余りも昔、この近くのむらに源治という働き者の若者がいた。そして、その隣のむらには、ヨシノというきりょうよしの娘がいた。
二人は、ある年の盆踊りの晩に知り合い、いつしか想い想われる仲となり、やがて夫婦[めおと]になろうと固く契り合うほどになった。ところが、どうしたわけか、どちらの親もがんとして二人の仲を許そうとはしなかった。
おもいあまった二人は、とうとう、死んであの世で添いとげようと誓い合うのじゃった。
ことしもまた夏が来て、こよいのむらは盆踊りでたいそうにぎわっていた。二人は、ひそかにしめし合わせて、そっと踊りの輪を抜け出し、手を取り合って川下の渕の上に下りたった。
ただ、だまってしっかり抱き合っていた源治とヨシノ、やがて踊りのたすきで互いの体を一つに結び、黒ぐろと渦巻く渕めがけて身をおどらせた。
朝になって、源治がおらん、ヨシノもおらんと二つのむらは大さわぎとなった。むらの衆が総出で探していたら、一里(約四キロ)も川下の渕の岩に、男と女のぞうりがそろえてあるのがみつかった。
それから、また何日かたったある日、筏下しの男たちが、その渕の底に、白く石のように沈んでいる源治とヨシノを見つけたのじゃった。
むらの衆は、二人をあわれみ、ねんごろに葬ったということじゃ。
こんなことがあってから、この渕を源治渕と呼ぶようになったそうな。
この源治渕も、今じゃ二津野ダムの底に沈んで、もう二度と見ることはないが、ちょうど、あの果無[はてなし]トンネルの真下あたりにあったのじゃ。 |
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