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昔は、六月土用(旧暦)のころになると、どこの在所でも、虫おくりをしたものじゃ。
闇夜の晩に、在所の衆は、わら人形を先頭に押し立て、めいめいあかあかとたいまつを明かし、
「実盛[さねもり]殿の御通り」
と叫び、チン、チン、チン、ドン、ドン、ドン、鉦[かね]を打ち太鼓を叩いて大川(十津川)へと行列を繰り出すのじゃ。やがて行列が川原に着くと、声をそろえて
実盛殿の仰せで
作りの虫を送るヨー
あとは栄え候ヨー。
(チン、チン、チン。ドン、ドン、ドン。)
と、うたい、般若心経を誦[とな]えながら、わら人形とたいまつを一斉に流れに投げ入れる。そして、後ろを振り向かないで、暗闇の中をめいめい一目散に家に戻るのじゃ。いやいや、せっかく里の田畑から川へおびき出した虫どもが、ぐずぐずしていたら、また付いて戻ってはたいへんだからじゃよ。
この呪[まじな]いは、たいていは、三晩ほども続けたものじゃ。
昔、平家に斎藤別当実盛と[さいとうべっとうさねもり]いう老将がおった。実盛は、源氏との合戦で激しく切り結んでいたのじゃ。ところが、実盛は田んぼの刈り株に足をとられて、すってんどうと倒れてしまったところを、ばっさり切られてしもうたそうな。
稲の刈り株のせいで切られた実盛の怨霊は、後にウンカとなって恨みの稲を喰い荒すのだという。
人びとは、この実盛を哀れみ、実盛の無念や恨みを慰め、怒りを和らげることによって、虫のあばれるのをおさえようとしたものじゃ。
虫おくりのわら人形はその実盛なのじゃ。 |
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話者 |
湯之原 |
羽根 定男 |
再話 |
湯之原 |
大野 寿男 |
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