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昔々。川津のある百姓家のおじさんは、日がな一日、田をすいていたそうな。
そのうちにだんだんと日が暮れてきた。
「牛よ。今日一日ご苦労じゃったのら。さあ帰って休もうか。」
牛から鞍をおろし、犂[すき]もはずして、畔[あぜ]道に置いた。おじさんも牛も一日の疲れが出て、とぼとぼと歩き出した。おじさんは、手網をもって、牛に引かれて家路に向かっていた。そのうち、牛は山道へ入って行くように、おじさんには思えた。これはどうしたことか。
「こら、こら、どこへ行く気ないよ。そこは山道じゃ。家に帰れんぞ。こっちじゃ、こっちじゃ。」
と、おじさんはいっしょうけんめいに手綱を引っぱったそうな。
しかし、牛もがんこに言うことをきかず、「モーッ」とも言わず、グイグイおじさんを引っぱっていった。とうとう仕方なく、おじさんは牛についていったそうな。そのうち、やっと家に着き、牛は自分の小屋に入っていった。おじさんは、ふにゃふにゃと戸口に座り込んでしまった。家族は口々に、
「父さん、こんなに日が暮れるまで、何しょったんないよ。ほんまに心配したぜ。」
「そうか、そりゃあすまなんだ。牛が山道へ入るもんじゃあすか、こりゃあおかしいと、怒ったり引っぱったりしたんじゃが、言うこと聞かんもんじゃすか、仕方なあ、牛について来たんじゃ。それで遅うなったんじゃ。」
「父さん、何言うとんないよ。そりゃあ、父さんがタヌキにだまされて、山道へ連れ込まれかけていたんじゃあがいだ。」
「そうか、おれがタヌキにだまされて、牛の方がまともじゃったということか。」
と、頭をかいていたそうな。 |
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