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ずいぶん昔の話だそうだ。ある年の十月、玉置神社では、どの神様を祭神に決めたらよかろうか、との話し合いがもたれたと。
そこで、玉置神社では、十津川中の神々に、
「祭神を決めたいから、某日某の刻に遅れないように集まれ。」
と、呼び出しをかけたと。
折立、中谷のお宮は、女の神様でたごころ姫といわれていた。玉置神社からの知らせを受けたたごころ姫は、ぜひ祭神に選ばれたいものだとひそかに思っていたと。
いよいよ祭神を選ぶという日が来た。急いで身支度をすますと、玉置神社へと坂道をかけ出していったと。
この日、たごころ姫は、祭神に選ばれたいとの思いが強く、なぜか落ち着かぬ心で支度をしたものだから、帯ひもをきちんと結[ゆわ]えてなかったのだ。もう、夢中で坂道を登っていた。やがて、玉置山が見える峠にさしかかったころ、なんとしたことか、具合の悪いことに、袴のひもがほどけてきた。そうなるとなさけないことに、袴のすそが足にまつわりつき、とても歩きにくくなってきた。ますます気はあせる。直すには時間がとてもたりない。とうとう、たごころ姫は峠の道の端にあった大きな石の上に袴を脱ぎ捨て、玉置神社へかけていったと。
たごころ姫は、袴姿で歩いたことで、ずいぶん時間をとられ、玉置神社に着いた時には時刻にすっかり遅れ、祭神もすでに決まっておったと。
玉置神社の祭神になりたい、という夢もはかなく消えたたごころ姫は、再び折立中谷のお宮に帰ったと。
たごころ姫が祭神になろうと、玉置神社への道を急ぎ、あわてて袴を脱ぎ、載せたという石を、その後、誰いうとなく「袴石」と呼ぶようになったということじゃよ。そして、この道を通る村人は袴石に榊[さかき]などを供えるようになったと。
今でもその袴石は、峠の道の端にある。 |
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