|
|
|
|
|
猿飼の高森には、底なし田がありました。
あれは、わたしがまだ小さかったころ、高森の親せきの家へ遊びに行ったときのことでした。
きょうは、在所のおばさんたちが寄って、宮田(神社の水田)の田植えをする日だというのです。
ところが、この宮田は名にしおう底なし田じゃったらしく、いったんはまりこんだら、たいへんなことになると、おばさんたちはたいそうおびえていました。はまりこまないようにと、在所の衆は、この田んぼに大きな松の丸太をたてよこにして沈めてありました。
わたしにも田植えをさせてとせがんだら、おばさんたちは、
「泥の中の丸太を踏み外したらあかんぜ。」
といいながら苗を取ってくれました。わたしは、いわれるままに、おそるおそる丸太を足でさぐりながら、苗を植えたのを今もおぼえています。
やっと、田植えがすんで、おばさんたちと一服しているとき、おばさんの一人が湯呑のお茶をすすりながら、こんな話をしてくれました。
「ずっと昔、在所のある人が、うっかりして、この田んぼにうすをまくりこんだんじゃ。すると、うすは、ずるずるずると見るまに泥の底へ沈んでしもうた。さあ、たいへんと、在所の衆みんなで、いっしょうけんめい田んぼの中をさがしたものじゃ。けんど、いくらさがしても、とうとううすは見つからんかった。しかたなく、あきらめかけていたら、何日かたったある日、高森の下を流れる大川(十津川)のいちざこ渕にうすが浮いとるというので、行って見たら、そのうすは、宮田にころがりこんだうすに間違いなかった。」と。
この高森の底なし田は、桑畑のいちざこ渕とつながっていて、底なし田にはまると、いちざこの渕へ出てくるというのでした。
わたしは、子ども心に気色悪いことと思い込んでいたものです。 |
|
|
話者 |
湯之原 |
東 ひで子 |
記録 |
湯之原 |
大野 寿男 |
|
|
|
|
|
|
|