|
|
|
|
|
これは果無[はてなし]にあった話じゃ。
果無に果無谷ちゅう谷があって、そこに果無滝があるのを知っとるか。あんまり大きい滝じゃないけんどのう。
むかしむかしのことじゃった。いつの頃からか月に一回、昼すぎくらいになると、この滝からお椀が飛んでくるんじゃ。「ウウーン」という音をかすかにたてて飛んでくるんで、すぐわかるんじゃ。迷惑かけてはならんと思っていたのか、同じ家に続けて飛んでくることはなかったらしいよ。
飛んできたお椀は、まるで目が付いているようで、めあての家の人が外で働いておれば、その人の側に、家の中におれば、その空いた窓からスーッと入って目の前にとまるんじゃ。
お椀は何しに来たと思う。
お椀の着いた家の人は、その中へ麦飯や粟飯をてんこもり(山盛)についでやるんじゃ。漬物があればそれもつけてな。そうするとお椀は、フアーと浮いて「ウウーン」と果無滝へ帰っていくんじゃよ。
あるときのことじゃ。いつものようにお椀は飛んできたよ、そしてちょうどマヤゴエ(牛の糞)を出している男の前に止まってしまったわ。その男は、大層なめんどくさがりやであった。ちらっとお椀を見たが、臭さは臭し、おまけに暑い日であった。
「ええい、このくそ忙しいのに、しちめんどうくさいお椀じゃ、この牛の糞でも食らえ。」
いきなり、お椀の中へ糞をほうり込んでしまったんじゃ。おわんはそれでもゆっくり浮き上がると、「ウウーン」と小さい音をたてて、いつものように滝へ帰っていったんじゃ。
それっきりなんじゃよ。お椀は、もう二度と飛んでこなかったんじゃ。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|