十津川探検 ~十津川郷の昔話~
ミミズの丸薬ミミズの丸薬(音声ガイド)
   昔、あるところに、貧乏なやぶ医者がおったんや。
 あるとき、その医者のそばに住んでた貧乏な母さんが病気になってな。子供が、その医者へ薬をもらいに行きよったんや。せやけどなあ、その医者も、どだい(さっぱり)はやらん医者じゃもんで、薬はたんと(多く)なかったんやと。医者が子供に、母さんの様子を聞いたら、どうやら熱病らしい。
「さあ、こらあえらい(たいへんな)ことになった。薬はないし、どうしよう。」と考えこんでしもうた。
 そんなこと知らん子供は、なんぼたのんでも、薬を出してこないのは、「こりゃ薬の値段が高うて、わしが貧乏で金が払えんからやろう。」と考えよった。
 それで、「こりゃあかん。金を用意せにゃ。」と、親類の家々を回って、金を用意しようと考えよったんや。どないしても母さんを助けたいと子供は走り回りよった。
 医者は、「あの子が金を用意してきたら、どうしよう。」と心配やったが、どうしようもないし、なんとかうまい考えは、ないものやろかと、外へ出ていかはってなあ。
 気が重いまま、畑仕事をしょったら、メメズ(ミミズ)がチョロチョロ出てきよった。
「うんうん、これでも、薬にならんことは、ないじゃろ。」
と言うて、炊[た]いてあった飯にすりこんで、丸薬みたいなものを作りょったんやと。
 そうこうしているうちに、子供が金をこしらえて走ってきたんで、医者は、作った丸薬を子供に持たせて帰さった。(帰らせた。)そうしたものの、もし、あの薬が効かなんだら、どうしたものかと心配やった。
 それから何日かたって、子供がまたやってきたんで、医者は、さあたいへん、どない(どのように)言いわけしようかと、オドオドしてると、
「先生、おかげで、お母[かあ]の熱が下がって、命が助かりました。」
と子供が礼を言うので、あの薬を飲んでからの様子を聞いてみやはったら、
「しっぽり(たくさん)汗をかいて、熱が下がりましたんや。」
と言うたので、さてはミミズの丸薬で人助けができたのかと、貧乏医者は、
「こりゃ、おれも、じっとしておれんわい。」
そう言うて、あっちこっちとたずね、勉強しよったんで、とうとうりっぱな医者になったと。
 こんなわけで、ミミズは熱冷ましによう効く妙薬になってんと。
再話   後木 隼一
(研秀出版刊「日本の民話」から)

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