十津川探検 ~十津川郷の昔話~
おにといりマメおにといりマメ(音声ガイド)
   ずっとずっとむかしのことじゃがな。
 ある年の夏、いかい(ひどい)日照りつづきでな、村の田んぼという田んぼ、みーんなカラカラになってしもうたんじゃ。
 ひとりの百しょうが、ひびのはいった田んぼ見ちゃあ、ためいきばっかりついていたんじゃ。
 ほて(そして)、つい、
「だれそ、水くれんかの。ほたら(そしたら)、むすめくれてやるんじゃが…。」
と、ひとりごというたんじゃ。
 ほたら、どっからか、若い男がやってきて、
「おまえさんのたのみ、聞こう。そのかわり、きっとむすめをくれるな。」
と、いうたかと思うたら、あっという間に、田んぼいっぱいに水がたまったんじゃ。
 きもっ玉ぬかれて(きもをつぶすほどびっくりして)おった百しょうが、やっと、われにかえったときにゃあ、もう、若者は、どっかへいてしもうて、そこらにゃあおらなんだと。
「こりゃあ、えらいこというてしもうた。ほんまにむすめくれえいうてきたら、どがあにしよう。よわったことになった。」
 百しょうが、しょぼ、しょぼ、うちへ帰ってくると、それを見たむすめが、
「おとう、どうなさった。えらく顔色わりいようじゃが…。」
「ほんまに、どこぞ、こころわりいか(気分がすぐれないのか)。」
と、やかましいよってに、百しょうはかくせんようになって、田んぼであったことを話したんじゃ。
 むすめは、
「そんなら、わたしはおよめにいきます。じゃが、どうかトシゴイ(節分)まで待ってもろうてくだされ。」
といい、それから百しょうはないておったんじゃ。
 そうこうしているうちに晩がきて、昼間の男がむすめをつれにくると、百しょうは、
「昼間の約そくはちゃんと守ります。けんど、どうかトシゴイまで待ってくだされ。」
と、手を合わして、いっしょうけんめいにたのんだんじゃ。
 すると、男は、だまって、さっさともどっていってしもうたんじゃ。
 やがて、約そくのトシゴイの晩がやってきて、百しょうがマメをいってエベッサマにそなえておるうちに、むこがきてむすめをつれていてしもうたんじゃ。
 むすめは、うちを出るきわに、
「おとう、わたしは一町(一〇九メートル)ごとにマメを植えていきます。マメに花がさいたら、それをたよりにさがしにきてくだされ。」
と言いのこして、マメをもって行ったんじゃ。
 むすめはとついで間なしに、みごもって、かわいげな(かわいい)ほうし(男の子)を産んだんじゃ。
 三年たって、百しょうの家の庭にマメの花がさいたので、百しょうはむすめをさがしに出かけたんじゃ。一町めごと、花をたどっていくと、今までいた(行った)こともないおく山にはいり、とうとう、大きな岩屋にいきついたんじゃ。
 そこに、むすめとはじめて見るまごがおったんじゃ。むすめは、
「おとう、わたしの夫は、ほんまはおになんです。おとうがきたと知ったら、きっと、むり難題をいうでしょう。じゃが、おとう、どうぞきばって(がまんして)おくれ。」
 晩になって、おには大きなシカをかついでもどってくると、
「じじい、あしたは、アワ一斗まく畑(一八リットルまく広さ、二五〇アール)をきれ(開け)。」
と、いいつけたんじゃ。
 あくる日、じいさんは、山をひらいて畑をこしらえにかかったが、なかなかうまいぐあいにしごとがはかどらず、よわって(こまって)おると、そこへまごがやってきて、
「じいちゃま、おらもやる。」
いうて、ふたりで、せえだあ(いっしょうけんめいに)したので、やっとのことできりおえたんじゃ。
 おには、こんどは、その畑にアワをまけといいつけたんじゃが、また、まごが手つどうて、まきおえたんじゃ。
 おには、おもしろがって、つぎは、
「きんのう(きのう)まいたアワを一つぼ(一つぶ)のこさんとひらえ。」といいつけたんじゃ。
 じいさんは、あんまりきつい仕事にきばりかねて、
「もう、かなわん。はよう ここをにげだそう。」
と、むすめと相談して、まごをつれて岩屋をこっそりぬけだしたんじゃ。
 ところが、それを知ったおには、ドシン、ドシンと追いかけてくるんじゃ。そのときじゃ。まごがかくしもっておったトシゴイのいりマメを、おにめがけて、てっつけた(投げつけた)んじゃ。マメがバラバラとおににあたると、ポキッと角が折れてしもうたんじゃ。ほしたら、今までの元気もどこへやら、「助けてえ。」と頭をかかえておには、にげてしもうたんじゃ。
 まごは、にっこりとして、
「わしは、ほんまはエベッサマじゃ。おまえさんら親子がふびんにおもえて、助けてやろうと、子どもに生まれ変わってきたのじゃ。もう案ずることはない。これからはあんきに(気楽に)くらせよ。」
といいのこして、ぱっと消えたということじゃ。
 ほんでおには、いりマメがおとろしいんじゃと。それから、節分にはマメまきをすることになったんやということじゃ。
話者   上垣 なお
採集者   林 宏
再話   大野 寿男
(日本標準社刊「奈良の昔話」から)

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