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一、おしゃかさまとハンビ
ずっと、むかしのことじゃあが、あったかい春の日、おしゃかさまがくさわら(草原)を散歩しておったんじゃと。
おしゃかさまは、ひょいときれえなカタ(もよう)のついとるハンビ(マムシ)を見つけての、
「こりゃあ、かわいげなものじゃのう。(かわいらしいものだなあ。)」
と、つい、手のひらにのせてみたんじゃと。
そしたら、ハンビはなんとしたもんか、急におしゃかさまの手にかみついたんじゃと。おしゃかさまは、たいへんおこって、ハンビを地べたにたたきつけてしもうたんじゃと。びっくりして、どくろ(とぐろ)をまいとるハンビの上に、重たい石をのせてしもうたんじゃと。ハンビは、もう、動くこともどうすることもできなんだんじゃ。
何日も何日もたって、そこの地面から、なん本もなん本も、ワラビが芽を出したんじゃ。
なん本も、なん本ものワラビはの、その重たい石をそろそろ持ち上げたんじゃと。ハンビは、それで石の下からはい出して助かったんじゃと。
それから、ハンビは、ワラビに、命の恩があるんじゃあと。じゃあすか(そうだから)、村人は、山やくさわらなんかへ行くときにゃ、わかいワラビのしるをからだにぬって、
「ワラビの恩をわすれたか。」
と言うと、ハンビにかまれんいうことじゃ。
二、カヤの芽とハンビ
春さきに、ぬくうなってきたよって、土の中からハンビ(まむし)が出てきて、くさわらでどくろ(とぐろ)をまいて、ねておったんじゃと。
そしたら、カヤの芽がぐんぐんのびてきて、のんびりねておるハンビのどう中をつきぬいてしもうたんじゃと。ハンビはもう、前へも後へも、どっちへも動けんようになってしもうたんじゃと。
さて、ハンビは、びっくりしてしもうたのなんのって、くるいそうなぐらいじゃった。
「こりゃ、よわった(こまった)ことになってしもうた。どうしたもんじゃろう。」
ハンビが困りはてているところへ、ワラビがなん本もなん本も芽を出して、曲がってのびてきたんじゃと。
なん本も、なん本ものワラビが、ぐんぐん、ぐんぐんのびてきて、ハンビをおし上げてくれたよって、カヤの芽からぬけて、命が助かったんじゃと。
それから、ハンビはワラビに命の恩があるんじゃと。ほんで(それで)、春さきなんかに山やくさわらへ行くときは、ワラビのしるをからだにぬり、
「千早峠[ちはやとうげ]の初ワラビ、むかしの恩をわすれたか。」
と、となえもうて(ながら)行くと、ハンビに食われんいうことじゃと。 |
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話者 |
上垣 なお |
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田中 資恭 |
採集者 |
林 宏 |
再話 |
後木 隼一 |
(日本標準社刊「奈良の伝説」から) |
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