十津川探検 ~十津川郷の昔話~
うさぎととちわらうさぎととちわら(音声ガイド)
   ずっと、昔の話である。あるとき、うさぎがとちわら(ひきがえる)に出会って話を持ちかけた。
「とちわらさん、餅をつこうと思うとるんじゃが、いっしょにつかんかい。」
「よかろう。」
相談はすぐにまとまり、さっそく餅をつくことになった。
また、うさぎが相談をもちかけた。
「餅は山のてっペんでつきたいのじゃが、どうかい。」
「そいつは、おもしろかろう。」
と話はすぐまとまった。うさぎととちわらは、さっそく山のてっペんで餅をついた。
「さあ、餅がつけた。」
と、とちわらが喜んだとき、うさぎが、またまた相談をもちかけた。
「ここで食べるのは、ちょっとおもしろみがないじゃないか。ひとつ、この餅をうすごと転がして、先に餅を拾ったものが食べる。こうしては、どうかいな。」
「それもよかろう。やってみよう。」
ということになり、うさぎととちわらは、餅の入ったままのうすを谷底めがけて転がした。急な斜面のこと、うすは勢いよく転がっていった。その後をうさぎが勢いよく駆けていく。一方のとちわらは少しもあわてず、のっそのっそと歩いて追っかけていった。
 まもなく、うすは大きな音をたてて谷底に落ちて止まった。うさぎが息せききって駆けつけてみると、うすの中はからっぽであった。びっくりしたうさぎ。
 とちわらが、のっそのっそ歩いている途中に、餅が落ちていた。これはありがたいと、でんとすわりこんで食べはじめた。谷まで行ったうさぎは、なかなかもどってこない。やがて、息を切らしてうさぎがもどってきたころには、とちわらは、ほとんどもちをたいらげていた。
「とちわらさん、片方がたれているよ。」
とうさぎがいえば、
「たれててもだんない。(かまわないよ。)」
と、とちわらは食べている。うさぎは、気まずそうに残り少ない餅を傍[かたわら]で食べていたそうである。
話者   武蔵   中谷 久恵
再話   後木 隼一

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