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ずっと昔の話である。迫西川[せいにしがわ]に七本桧[ひのき]というのがあったという。七本桧は、元は一本だが、中途で七本に分かれ、その一本一本が二かかえも三かかえもある大変大きな木だったそうだ。もともとこの七本桧は、山の神の木として大事に祀[まつ]られていたものである。
ある時、杣師[そまし]七人で、この七本桧を切り倒すことになった。なにしろ大きな木なので、近くの小屋に泊り込んで仕事をすることになったそうである。
さて、七人の杣師は、そろって仕事を始めた。みんなは懸命におのを振って切った。けれども、一日ではとうとう切り倒すことはできなんだと。
あくる朝、七人の杣師は、七本桧の元に行って大変おどろいた。昨日切ったはずの木っ端は一枚もなくなり、七本桧はすっかり元どおりになっていたんじゃと。
みんなは不思議でならなかったが、やりかけた仕事に取りかかった。その日も懸命に切ったが、とうとう倒すことはできなかったと。
次の朝、七本桧の元に行ってみると、やはり木っ端は一枚もなく、七本桧は元どおりになっていた。それでも、七人の杣師たちは、こりずに仕事にとりかかり、一心に切ったんじゃ。こんなことが六日間も続いた。
さすがに杣師たちも、不思議なことは夜のうちに起きるのだ、と気づいた。そこで、一度見ようではないか、ということになった。七人の杣師は、たいまつを明かして出かけて行った。七本桧に近づくと人声がする。あわててたいまつを消した。七本桧の見えるあたりまで近づいてみておどろいた。なんと不思議、七人の坊さんが
「それはこっち、これはそこへ、それはあっち……。」
と、それはそれはかいがいしく働いて、木っ端を桧の切り口にくっつけているのである。こうして七人の僧は、声をかけ合いながら仕事をすすめていたが、そのうち一人の坊さんが、
「この木っ端をもし焼かれたら困ることになるのだが。」
といったのを杣師たちは小耳にはさんだのである。だが、その時はあまり気にもかけず、ただもう七人の坊さんの仕事ぶりに見とれていた。そのうちに、とうとう七本桧は元どおりになっていた。あっけにとられているうちに七人の坊さんは消えていたそうじゃ。
七人の杣師は我に返り、今夜の不思議な出来事を話しながら帰った。そして、さっきの坊さんのことば「この木っ端を焼かれたら困る。」といったことばを思い出し、「そうだ、木っ端を片っ端から焼いていけばよいんだ。」と、よい思案も出たので、早々に床についた。
次の朝は、早くから仕事に出かけ、七人の杣師はおのを振り回し、できる木っ端をどんどん焼いていった。仕事ははかどり、夕方には、とうとう切り倒すことができたということじゃ。
その夜、七人の杣師は仕事の疲れと安心感で快い眠りについた。あけ方のこと、かしき(炊事をする人のこと)は、戸をたたく音で目を覚ました。戸を開けると、七人の坊さんが、小屋に入って来た。そして、坊さんたちは、眠っている杣師たちの頭をつぎつぎになでていった。
こうしてから、かしきに向かって、
「かしきさんは、毎朝ご飯を供えて下さるから助けてあげよう……。」
と言い残して、小屋を出ていった。
かしきは、七人の坊さんを小屋の外まで見送って行った。七人の坊さんは、小屋の近くのさいこの滝まで行くと、さっと金のにわとりに姿を変え、大空高く舞い上がったという。かしきは、この光景に見とれていたが、やがて小屋に帰ってみると、頭をなでられた七人の杣師は、みんな息がたえていたということだ。
(則本静明氏に確かめたことを一部入れた)。 |
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