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わしら子供の頃、うちのじいさんじゃった人が、ようつぎのような話をしてくれたもんじゃ。
その話というのは、こうじゃった。
ありゃあ、なんでも天保か安政の頃のことじゃった。
ある年の、夏の日のことじゃった。その日も、お天道[てんとう]さまがようやく西の山かげに入ろうとするときじゃった。どこから来たのか、見馴れぬ旅人さんが三人、この中谷(旭)の在所にやってきてな、一晩泊めてくれというのじゃ。よくよく見ると、三人は思い思いに短い刀を腰に差し込んだ、つるつる坊主の男衆じゃ。
「いったい、お前さんら、こんな山奥へ、また、なにしに来た。」
ときくと、
「わしら、あしたこの奥へ入り大蛇をとるのじゃ。」
「なに、大蛇を。………してどうする。」
「それじゃあよ、大蛇の鱗は大金になる。わしら、大蛇を殺してうろこをはぎ、それを売ってひと儲けするのさ。」
「ふふん。……」
やがて、泊り込んだこの男たち、夕飯をすますと、大蛇とりのやりかたをぼそぼそ話してくれたものじゃ。
「わしら、大蛇の棲む岩ぐらに着いたら、笙[しょう]やひちりきを吹き鳴らすのじゃ。それから、持ってきた味噌を火でこんがり焼くのさ。笙やひちりきの音をきき、味噌のいい臭いを嗅ぐと、大蛇は岩ぐらの穴から出てくるのじゃ。大蛇はわしら三人を見つけ、大きな口をあけてひと飲みにしてしまうのさ。そして、そばにある焼味噌をペロペロなめるのさ。やがて、大蛇はのどが渇き、水を飲もうとするさ。
谷の水に大蛇が首を突っ込もうとする、そのほんの少し前に、わしら、この刀で大蛇の横っ腹を切り割って外へ飛び出すのさ。」
「もし、腹から逃げ出す前に、大蛇が水を飲んだらどうなる。」
「なに、そのときにゃ、腹の中のわしらは、とろとろに溶かされてしまうさ。」
「じゃが案ずることはない。そんなへまはせん。」
「腹から飛び出したわしらは、死んだ大蛇の鱗を一枚一枚はぎとるのよ。」
「ところでお前さん方、どうして坊主頭なのかね、つるつるじゃないか。」
「ああ、この頭か、これはな、大蛇の腹に入ったとき、まっさきに頭の毛がとかされるのよ。何回も飲み込まれているから毛が生える間がないのじゃ、ハッハハハハ。」
「ふへへ………。」
ほんまに、聞くだけで、ぞうっとする話じゃった。
翌朝、早くから起きた三人の男、用意をととのえると大蛇が棲むという岩ぐらめざして在所をたったという。
しかし、それから後のこの男衆らの音沙汰[さた]はぷっつり絶えて、今もってわからぬという。果たして、この男衆ら、首尾よく大蛇を捕ったのやら、それとも大蛇に飲み込まれ糊のように溶かされてしもうたのやら、だれも知らないのじゃと。 |
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話者 |
旭 |
岸尾 ヒロノ |
記録 |
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上野地小学校 |
再話 |
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大野 寿男 |
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