十津川探検 ~十津川郷の昔話~
熊谷の矢の子熊谷の矢の子(音声ガイド)
   昔、昔、内原奥里の平山[たいらやま]のみこどりというところで、巫女[みこ]さんが、石くど立てて湯を湧かし、矢を清め、熊谷の方角めがけてヒョウと力いっぱい射たそうな。
 矢は、そのまんま一里(約四キロ)もあろうかと思われる、あの熊谷の丘まで飛んだ。
 そして、熊谷の丘の地面にプスッーと、さかさまになって突っ立った。
 やがて、その矢から根が下り、矢の子(たけのこ)がニョキッと生えたものだから、里の衆は大騒ぎ、
「矢の子が生えた。こりゃ、ふしぎ。」
「矢の子が生えた。こりゃ、おかし。」
と、うたいながら、下の谷川から砂を上げ、石を運び、その竹の周りに積み上げて記念の石塚を建てたそうな。

(わたしの母は、先年九十才で亡くなりました。
 母は晩年、目を患い、とうとうめしいの身となりました。
 母は、見えないさびしさをまぎらわすかのように、よく、何やら口ずさんでいました。それは唄っているかのようでした。
 わたしが、時折たずねますと、たいへん喜んで昔の話を、まるで唄うような調子で語ってくれたのでした。)
話者   内原   高津 きく
記録   滝川   富沢 たね子
再話   大野 寿男

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