十津川探検 ~十津川郷の昔話~
猟犬になった狼猟犬になった狼(音声ガイド)
   柳本の先祖には、それは腕のいい猟師がおった。
 ある日、猟に出かけた男が、獲物を追っているうちに、ソウケ谷の奥深くまで入ってしまった。そして、大きな岩のそばに来た。ところが、犬のようすがおかしいので、あたりを探していると岩穴があり、中をのぞくと、それはかわいい狼の子が三匹いた。運よく親もいない。男は、狼の子を猟犬に育てたら、それはよう猟をする、ということを思い出して、
「おれは、こいつがいい。」
と一匹の頭をなでておいた。
 あくる日も猟に出かけ、狼のいた場所に行ってみると、きのう頭をなでておいた狼の子だけが残っていた。男は、狼の子を抱き上げ、
「おれは、こいつをりっぱな猟犬に育てるぞ。ほんで、千匹捕ったら供養してやろう。」
と心に約束して狼の子を抱いて帰った。
 男は、狼の子を大事に育て、やがて予想通り、りっぱな猟犬になった。ある時は谷で、ある時は山で待っていると、必ず獲物を追い出して来た。すぐれた猟犬によって、男は多くの獲物を仕留めることができた。
 こうして、何年かたったある朝、いつものように猟に出かけた。川でたき火をしてから犬(狼の子)を放った。ところが、普段ならすぐ山に駆け込んで行くのに今日のようすは変わっていた。
 猟犬は山へは行かず、川へ行き、体をぬらして火のそばへ来て体をぶるぶるっとふるった。そして、また川へ行き、体をぬらしては火のそばに来て体をふるう。猟師は、この様子を見ているうちに、
「そうか、あいつは火を消そうとしておるんじゃな。火を消しといてから、わしののどぶえをおそおうとしておるんじゃろう。
 そう言えば、きのう鹿を撃ったが、川に流してしもうた。その鹿が千匹めじゃったんじゃろうか。千匹獲ったら供養してやろういうておきながら、せんかったよって、おれの命を取ろうとしたんじゃろう。こいつは油断ならん。」そう思った猟師は、銃のねらいを定め、猟犬を撃ち殺した、ということである。
話者   那知谷   後木 留若
記録   那知谷   後木 隼一

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