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上湯川[かみゆのかわ]に菅原神社という小さな社がある。その社の下を流れる上湯川に妙神渕[みょうじんぶち]という渕がある。この妙神渕は、明治の大水害以前は、たいそう深い渕で、その下には暗い岩穴があって河童が棲んでいたそうじゃ。
夏の頃になると、河童たちが毎日のように四・五匹連れだって流れの速い瀬で水浴びをしていたという。河童たち、水しぶきを上げて、ぞんぶんに戯[たわむ]れたあとは、岩に上がって甲らを干してひと休み、そして、また水にもぐるといった具合で、いかにも、のどかな日々を送っておったという。
ある夏の昼下り、百姓が田んぼに入って二番草をかいておったそうじゃ。そこへ、だれか呼ぶ声がするので頭を上げると、どこから来たのか、見馴れぬ一人の男が畦[あぜ]につっ立っている。
その男、しきりに
「わしにも、草かきさしてくれ。」
という。それほどいうのならと、草かきを手伝わせることにしたそうじゃ。
ところが、その男、不思議なことに、畦につくまった(すわった)まんま、三メートルでも四メートルでも、手を延ばして草かきをするではないか。
これを見た百姓、
「ははん、これは、ただものではない。」
と、ひとり言をいいながら、そっと嫁に耳打ちして、いそいで煤水[すすみず]を作らせた。そして、なにくわぬ顔して、
「これ、これ、お前さん。これは、夏負けにはめっぽう効く妙薬じゃ。これをひと息に呑めば、ぐっと体が楽になるぞ。」
と、その煤水を湯呑み茶碗にたっぷり一ぱい飲ませたのじゃ。
男は、本気にして、ひと息にその煤水を飲み干したからたまらない。たちまち、男はギャーギャーと悲鳴をあげて、下の川へすっとんだそうじゃ。
そもそも、煤水は河童の大敵じゃ、と昔から伝えられておる。
河童は人間に化けたが、百姓がそれを見破ったという話、上湯川の津越[つごえ]という家に古くから伝わっている。 |
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