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上湯川の古谷[ふるや]川の上流に上(かみ)という家があった。今では屋敷跡だけが残っている。
ずいぶん昔の話である。この家におさよ、という娘がいた。ある日のことである。おさよは、日が暮れても一向に帰ってこなかった。家の人は大さわぎをしてさがしたが、何の手がかりもなかった。村の人も次の日から手分けをしてさがしたが、全くどこへ行ったかわからなかった。
おさよが突然消えてからというもの、家の人は、何とか無事に生きて帰って来てほしいものだと、一心に神様や権現様にお祈りし祈とうも続けた。それでも、おさよは一向に現われなかった。
ところが、まる三年過ぎたある日、おさよがひょっこり帰ってきた。
あわれにも、おさよは見るかげもない姿であった。着物はぼろぼろになり、歯は一本もなかった。
みんながいろいろ聞きただしたところ、おさよのいうには、出谷奥の栂[とが]の木の本[もと]で天狗にかくまわれていたという。その間、天狗がひょいと出してくれるものは、石でも何でも食べられたという。そして、天狗のところでは三日しかいなかったはずだ、と話していたということである。
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