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今から数百年も昔の話である。そのころ大塔宮護良親王の一行が賊に追われて逃げる途中、この沼平家[ぬまひらけ]に立ち寄られたそうだ。賊は近くに迫っている。一行の中には女、子供もまじっている。そんなわけで、宮は急ぎ従者(けらい)たちと話し合われて、
「我らは賊に追われている身。これから先、うまくのがれて望みを大成しなければならない。今から行く旅は険しくそれは大変なのだ。それに、賊から逃れるためになるべく荷物は軽くし、足手まといになるものも捨てていかねばならない。このことをよう心得よ。」
と、かたい心のうちを述べられた。
「なぜに我らを捨てていく。いっしょに行きたい。死ぬならば共に…。」
と、むせび泣く声にも、従者たちは心を鬼にした。宮の命令で、四歳になる男の子と藤の局、それに下男一人、下女一人を沼平家に託して、一行は立ち去った。
宮の一行が去って、間もなくやって来た賊の手にかかって、四歳になる男の子は、情け容赦もなく殺されたそうだ。可愛い子を失った藤の局の悲しみは、何ともいたましいものであった。
藤の局は悲嘆にくれ、泣き暮らしているうちに、やがて目を患うようになった。それで、不動様を建て信仰するようになったが、とうとう盲[めしい]になったということだ。
我が身の不幸を嘆いた藤の局は、とうとう鎌で自分の首をかき切り、自害したということである。
これまで一心に仕えていた下男下女も、藤の局親子の不幸を目の当りにして、今はもう心の支えを失い、共に自害し果ててしまったということである。 |
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話者 |
小原 |
沼平 ウタノ |
記録 |
小原 |
沼平 三千代 |
再話 |
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後木 隼一 |
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