十津川探検 ~十津川郷の昔話~
牛追滝の由来牛追滝の由来(音声ガイド)
   大字小井[こい]の親谷[おやんたに]の話だが、昔は大矢の谷と書かれていたそうだ。
 この親谷に牛追滝があるが、大昔は、飛び渡りの滝ともいわれていた。その滝の少し上手[かみて]に谷巾のせまい所があり、ここを渡らなければ、小井にも池穴の方へも行けなかったそうだ。
 ある時のことである。小井の若者が池穴方面から牛を追ってやって来た。
 その時は、前日にかなりの雨が降っていたので、谷はこげ茶色の水となり、かなりの石が押し流され、谷間の山々にゴウゴウと水音が、こだましていた。
 若者は谷を見て、渡れるかどうかしばらく考えていたが、思い切って牛を連れて渡り始めた。ところが、牛は、水の勢いに足を取られてどっと流れ出した。若者は、どうすることもできず思わず、
「恵比須姫[えびすひめ]様、助けて下さい。」
と、さけんだそうだ。恵比須姫様は、この谷の近くの神社の祭神である。
 牛は見えなくなり、もうだめだと思い、その場で茫然[ぼうぜん]としていたところ、「モーン」と一声、谷水の音にも負けない鳴き声が聞こえた。若者は、はっと我にかえり急いで声のした滝の頭の所まで行って見た。どうだろう。おどろいたことに、一本の太い藤かずらが牛をひかえているのだ。若者は、その場に行くこともできずに困っていたが、不思議にも、自分がふんばって立っている足元に、藤かずらにからんだ手綱[たずな]があった。若者は急いで手綱をとり、藤づるを自分の腰にまきつけて、力いっぱい「そうれ、そうれ」とかけ声をかけて引張った。またまた不思議、牛は急に元気を出して岸へ上って来た。
「やれ、やれ、助かった、助かった。」
「男滝様、女滝様、恵比須姫様ありがとうございました。」
とお礼をいって、おがんだそうな。そうして元気をとりもどした牛を連れて帰り、この事を話すと老父母は、
「それは良かった、良かった。これも神様のおかげじゃあ。しかし、あの飛び渡りの所に、そんな藤かずらはないはずじゃ。」と言った。
そこで、お塩とお米を持ってお礼参りに行ったそうな。
 その場所をよくよく見ても滝に藤かずらは無く、若者が腰をしばったかずらも見あたらず、それからというものは誰言うとはなしに牛追い滝とよぶようになったのである。
話者   小井   植田 うたの
再話   玉置 辰雄

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