十津川探検 ~十津川郷の昔話~
東野の角左衛門の力東野の角左衛門の力(音声ガイド)
   むかし、東野に角左衛門という、たいそう、力の強い男がおった。
 ある時、この男が田戸[たど]へ来ると、米屋の主人が、冗談に、「この米俵三俵(百八十Kg)もって歩くことができたら、ただでやろうぞ。」といえば、角左衛門は本気になってしまった。田戸から東野といえば、遠いばかりでなく、額が道につくほどの坂道ばかりである。手ぶらで歩いてもしんどいくらい。米屋の主人は、まさか、いくら力があるといっても米俵三俵背負えるはずはないと、思っていた。ところが角左衛門、やにわに米屋のかたわらの竹薮に入って、青竹一本へし折ってきた。そして、枝をしごいて、足で竹をひしゃいでしまった。何にするのかと思っていると、その青竹をおいそ(太いひも)代わりにして、ひょいと三つの米俵にかけると背に負って、のっしのっしと歩きだしてしまった。
 さあ、びっくりしたのは、米屋の主人。まさか、こんなに力があるとは知らなかったものだから、あわててしまった。元々、やる気なぞ小指の先ほどもなかったのだから、「オイオイ、もうわかった、おろせ、おろせ。」と、米俵にすがりついて、「どこにただで米をやるもんがおるもんか。」と、毒づいたそうだ。
 角左衛門、口にこそ出さなかったが、よほどくやしかった。こたえたのだ。東野への帰り途[みち]、いきなり道の側にあった松を、片うででねじり曲げてしまった。それから、その松のある所を「ねじり松横手」と呼ぶのであるが、角左衛門の悔しさが、今もねじれたまま残っている。
 角左衛門は実在の人で、東野へ降りる道端に小さな碑が建てられている。
話者   上葛川   森下 みな
記録   松実 豊繁

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