十津川探検 ~十津川郷の昔話~
間引のこと間引のこと(音声ガイド)
   わたし(森下みな)とおない年の者が二十三歳で死んだことがあった。その葬式のときに、父が、
「あの子は、生まれたときから寿命がなかったのだ。」と妙なことを言う。不思議に思って尋ねると、その人は末子として生まれたのだと言う。ところが、生まれ出てきたとき、産湯[うぶゆ]を使わせようとした産婆の手をとめたその子の父親が、
「洗わないでくれ、わしには、もうこの子に食わせるものがない。そんで、紙を顔にはるつもりじゃ。」という。
紙をはるとは、ぬれた和紙で鼻と口をおさえて窒息させるということだ。
 周りで手伝いをしていた人たちは驚いて、
「そんなむごいことをするな。」と、とめたそうだ。お産をすませた母親は、涙を流したまま横たわっていた。父親は、周りの人たちのいさめに、ついに負けて育てることにした。しかし、一度、あの世に送りこまれそうになったためか、早死にしたのだ、と父は話していた。
 間引きされたのは、身上[しんしょう]つぶしといわれた女子[おなご]が多かったという。
話者   上葛川   森下 みな
再話   松実 豊繁

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