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昔、高津の下の丸瀬下でのことであった。この時分の川といっても、谷のようなものだった。そんな所へ鮎ひきに行った時の話だが、わしが一日ひいて、夕方、家へ帰る途中のことだった。
なにげなく川を眺めていると、一人の釣人が川原を上へ行ったり、下へ行ったりしている。何かを探しているのかなと、最初は思っていたが、あまりにもようすがおかしいので、よく注意して見ると、川辺の大きな岩の上に狸が座って尾を振っているのである。上へ振れば釣人は上へ、下へ振れば下に行く。
これは、きっと狸にだまされているにちがいないと思い「お-い。」と大声で呼んでやった。すると、狸はびっくりしたのか、山の方へ逃げていった。釣人は疲れたのか、すわり込んで動こうともしない。しばらくして、川から上って来た釣人は、
「いくら帰る道へ行きたいと思うても、行けなんだんじゃ。」
「もう二度とここへは鮎ひきには来んぞ。足がだるうてだるうて。」
と言って帰ったことだ。 |
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話者 |
高津 |
津本 数平 |
記録 |
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津本 寛 |
再話 |
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玉置 辰雄 |
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