十津川探検 ~瀞洞夜話~
獣・川魚の去り行きしこと
   バンドリ、リス、テン、タヌキ(キツネは早くより)、イタチ、アナグマなどいよいよ少なくなり、鹿、羚羊、猿も漸々山中に山奥に退去してしまった。
 川魚もアメノウオ、大きな鯉、スズキ(亀も)、ヒゴイ、ウグイ、すべて少なくなり、スズキの如きは久しい前より姿を消したり。少量、小型となりゆく。特にウグイの、又は鯉の小になれる、万般ながら驚く。鮎の如きも昨今甚だしく不漁なり。
 これ工業、開發工事、森林伐採、観光ブームの喧しさ(□捕獲も)などの為なり。代わりに人を刺す魚や養殖放流のヒメマス、アメノウオなど少々入り來るを見る。人の進歩は一面にて善なるも、反面自然を破壊し、人を粗とし、落ち着きなく、その変化は種々相を通して人に悪をも与へるなり。
 我の幼時のウグイ(烏鯉)は、今時よりはるか大きく、鯉を思はす赤ハラのものなりき。郵便局の下で捕らへしアメノウオは実に1尺5~6寸あり、海の鯖のようなものであった。鮎は捕れても、今の量は値段のみ高く、洵に哀れの姿なり。
 銀鱗と云ひ、溌刺と云ふその背の美術的青緑の一刷、そして体躯の円熟、今、全く夢となる。かくて量も質も人の望むよりははるかに落ちてゐる。山は實のなる雑木はなくなりゆく。塒も巣も安定せぬのでは弱いものから、特殊なものから消えてゆくは當然ならん。川の汚濁の中に藥物,微粒のいろいろ交じり、油流れ、プロペラの音かく喧しく繁くなりては堪へられるものではなからう。こんなことが人にも影響してくるは心得るべきであらう。

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