十津川探検 ~瀞洞夜話~
簗のこと
   今年あたり鉱毒その他にて鮎甚だしく上り來ず。鮎を得る方法も幾多あるも、レクリェーションを兼ねて簗の法にて捕らへること、尤も壮大なり。大川をハ状にせぎその狭部にママダケ(丸竹)の編んだる簀の子を川底より斜めに2~3枚、水面上に出づること3間あまり。洪水前が尤もよく捕らへられる。
 下り鮎は(またその他の魚も)勢いよく流れにのり來たり、この簀の上にのり上げる。青色を帯しみごとなる尺余りのものもあり。水は中途に抜けて吸引力生じ逃るること不能。かくて人に捕らるるなり。里人簗の上にて火を焚き、鮎に塩をつけて焙り腹放題に喰ふあり。記憶によると伝馬船2隻満々捕りしことあり。分けるにも無造作に桶にてくみ分け、最後は籤して各自得る。その後の始末は腹を割いて塩をする者、焙る者など色々あり。猫も満腹して長く寝そべり鳴きもせず。家中匂ひ、紛々飽くことあり。酒好きの者はハラワタを塩にして肴の尤物とするあり。雌はタマゴ、雄はシラコなどもとりどりに塩して喰ふベきも、我はあまり好まず。筋肉は雄に多し。故に正月の鮨に使ふためには雄を塩にし、雌は焙りとしたり。尤もこんなことは今は殆ど消えたり。
 簗は上下流域に様々見たるものなり。但し、水流悪ければ不漁にして順番に見廻り仕掛けを適當に配して次へ行く。時には鮎を盗まるるあり。喧嘩もありたり。然し、この後は大工事と云ふベきなり。

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