十津川探検 ~瀞洞夜話~
再び瀞和歌山側の大蛇のこと
   以前に北又のインテリ炭焼き藤岡と云ふ者、水源地辺りで大蛇下り來るに出会ひ肝を潰したと云ひ、また三年程前に(この観光ブームの時に)、易者が再度大蛇に出会ひ玉置口ヘ逃げ、顔色なかりしと云ふ人ありと云ふ。第一、存在するとせば、肉食の彼は食餌に困るはずなり。どう考へても幻覚よりは考へられぬ。
注-(以下は東直晴氏の考え)
 2人(藤岡と易者)の見た「ぐちなわ」は、何れも胴の周り一升瓶位ありと。殊に藤岡の見た際は、(ぐちなわは、)初め道を横切り川の方へ下り行かんとしてゐたるが、人の氣配せるため、藤岡の方に首を向けし時は、両眼は親指の爪位あり、キラキラ光る。舌べろは、5~6寸ペロペロ出し入れしてゐて、思はずゾッとしたりと。暫く対時の後、大蛇は元來た山へ引き返しため、藤岡は峠まで無我夢中に駆け上り、山の自宅に皈りしと。
 翌日、再び田戸へ昨日の用を果たすべく來るのに、一人にては恐ろしく、長男12~3歳を連れて來る。この話を聞き、現場案内により行ってみると、なるほど生ひ茂る羊歯が両方に倒伏してゐた。丁度、材木でも引き出したるやうに……。
 藤岡と後の人(易者だったと云ふ)との時間的な差は、約13~4年位か。大蛇の出現場所は同じ道で間隔約50間(100メートル)。中森氏の言ふ如く、幻覚とするには、大胆な山人(炭焼き)藤岡が見て、また羊歯の倒伏せる状態より判断すれば、いささか物足りぬ判定の如し。現在日本の□□蛇の大なるものの限度を動物学者に聞きたいものだ。
注- ・この話は第24話にある。

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