十津川探検 ~瀞洞夜話~
アナグマの嗅覚に関して
   我21歳の頃、新屋敷の石垣(カへリ)の根元に赤土を2尺余り掘り取り、この中に栗の實を何程か入れて土を加へて固めたり。かうすると甘くなると開きしためなり。コスモスの花ありて秋探し。
 ある日のこと、飼い犬の鼻の辺り、異様なり。よく見ると下顎に傷あり。かなり深し。変に思へどそのままにゐたり。次の日、犬は例の新屋敷へ走り何をかなす。我栗のことは未だ心せざるなり(日淺きため)。異様な臭ひがするため、コスモスのあたりを見るに、一匹の大なるアナグマ、上顎を鼻もろとも咬み取られ死してあり。これにて我は知る。第一、アナグマの嗅覚力の敏がその栗の實を取らんとして忍び來たりて掘りたるなるべし。良き犬に非ざるも犬猛然とかかり、互ひに顎を交差して闘ひしなるべし。遂に犬の力まされる。上顎を咬み取られ、死せるならん。もし、その様目撃せば、さぞ面白かるべし。悪臭強きため捨てたり。熊に似たり。顔はシシに似たり。爪は狸よりはるかに長じ、茶褐色にして肛門のあたり濃褐色に臭腺のために染まりたり。
こんなものがノコノコ當時は出たものなり。今は影もなし。
(昭和34年2月12日)
注- ・「新屋敷」とは、中森氏の新しい屋敷のこと。
・「カへリ」または「カへリ石垣」次の図参照のこと
カヘリ石垣

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