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明治30年、40年頃のことか、木津呂に向井岩吉と云ふ男あり。宮井の瀬を強力を發揮して十津川舟を助けた話。當地でも、その頃九重で米2俵(32〆)を買ひ、オコにて担ぎ來たり。玉置口の渡し舟の中で休みもせず話し、帰宅せしと云ひ、また筏乗り専門の彼が先床に乗ると沈んだと云ふ。筏を淺瀬にかけし時は一人で樂々と離し、2~3名の同様労務者を易々として救へりと云ふ。年の内、暖かければ褌一つ裸にて常に櫂を担じて我が店の前を通り、酒好きなれば立ち寄り、全部の金を出して払へりと云ふ。そして、常に曰く、「櫂をもった乞食はないが筆を持った乞食がある」と云ひしよし、父より聞く。 |
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注- |
・「櫂を持った乞食は來んけど、書物をせったろうたこじきがござる」(せったろう=背負うの意) |
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・地名の読み方 木津呂(キズロ) 宮井(ミヤイ) 九重(クジュウ) 玉置口(タマイグチ) |
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・オコ(体の前後に荷物を担ぐときに使用する棒のこと。) |
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