十津川探検 ~瀞洞夜話~
タクラタと云ふ消失せし獣の話
   これは恐らく明治初年の頃、已に傳説となりしものなりと考へる。然し、我今存生せば110歳位の老人に度々耳にせしものなり。また地を変へて北山方面の老人にも聞きたり。
 「アホーのタクラタ」と云はれし動物のゐたと云ふ。この動物は、色々脚色されて話の中に出づ。冬、山小屋など雪の降る日、人々が薪にて暖をとってゐると突然入り來たり、人間に伍して温まると且つ熊の如し。剛毛の生へてハシカイものであるとも云ふ。
 余約25年前、田辺町、南方熊楠先生に尋ねしところ、やはり徳川時代の書物にありと云ふ。それは結局ジャコウネズミらしと云へり。

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