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外科学でも証明し難いのは「力マイタチ」のことなり。主として前額部、下腿部に突如として創傷を与へる不可思議なる現象なり。
何人も余之を見た。鎌型の10cmまたは15cm位の大傷を将來せしむ。人に聞きたるに色々あり。突然怪しき風來たり、よろめき、石など地物に當ったとき、又は石垣を落ちたとき、又は新宮の町を好天にて通行中、前方の犬キャンと云ひて膝に當たりて創を受く等なり。結局共通するものは、
①大傷の割にあまり痛くないか、少しも痛まず、後出血し、異常に氣付き、検査せるに、力マイタチに喰はれていた。
②決りとられし如き、新月状の傷多く、その節見るに抉りとられし部分は、新しき場合は白色に見える。
③皮膚の一部は欠損する。
④右に記せる如く、本年(32年)死の99翁の乾銀三郎老人の云ふ。新宮龍鼓橋あたりを好天氣に歩いてゐると、突然前方の半間あまりの犬、キャンと云ひて近寄り來たり。下腿にぶつかりたり。そのまま何ともなかりしに程を経て異常を感じたれば、膝関節直下にカマイタチに喰はれて居たり。医師にて縫合せりと云ふ。この際、特に注目すべきは、ズボンなど少しも破れては居らず、洵に奇怪なり。 |
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