東直晴氏の父辰二郎老人より聞くに、或る日のこと、山中に分け入りしところふと妙なものを發見したり。一匹の猿が、赤蜂の巣を取らんとして、之に前肢をふる。ガサッという云ふ音と共に怒った蜂が飛び出して來、猿を刺さんとする。然るに猿は逃げんともせずに、不動の構えして前肢にて静かに自己が目を覆ひ、去れば又触ると云ふ動作を暫くやってゐたが、同人に氣付き逃げ去りしと云ふ。
之を思ふに一種のヒューマニズムが看取される。