十津川探検 ~瀞洞夜話~
往時における特異な結婚風景
   書物でみると、他の國又は地方にても蹄鉄を花嫁に投げつけたり。あるいは雪塊を投げつけたと云ふことあり。當地にても水(セセナゲの濁り水も含む)を花嫁に打ちかける習慣ありし如し。
 現存する今年80歳を過ぐる中井の老母、大字高瀧より中家に嫁し來る。途中何の水禍もなく婚家に入り、「まあ良かった。」と緑の端に腰を下せり。然るに床下より一人の若者出で來たり(現東房松の父弁治)。セセナゲの水、手桶に汲みしを、いきなり頭から打っかけ、逃げ去りたり。流石花嫁もこれにはずぶぬれ、いたく困りしと云ふ。水をかけるは何故か。
(昭31、6、12)
注- ・中井-田戸、「浦地」の古い隠居。姓は中、屋号を「ナカイ」又は「中家」という。老女というのは、中作市老の妻。作市老の娘も高瀧へ嫁いでいる。
・中家-ナカイのこと
・東房松-田戸、屋号「上東(カミヒガシ)」現在はその子利彦の代になっている。
・セセナゲ-台所の流し水の溜め壺

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