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昔は、狼を日本武尊以來、非常に神秘視したり。恐ろしい乍らこれに畏服せるよし。また、助けられし話もあり。狼は明治33年吉野口方面で捕らへしを最後なりと言ふ。明治22、3年頃より急激に減少(一種ヂステンバーか。)、今は殆ど見る能はず。それ迄は徘徊し、唸りを上げて犬なども喰ひ、人々を縮み上がらせしものならん。然し、余尋常4年生の頃だが、日本狼の檻を見たる心地するあり。特徴は日本犬より稍大きく、痩せてゐ、さながら身軽さう。そして唯一の特徴は普通の毛の中に更に綿毛が密生してゐることであり、獲物を捕らへると眞先に蔵器を好んで喰ふよしなり。
昔は、狼の殘せし猪の肉など黙ってとる事をしなかった。神通力のある相手だから、「どうぞ下され。ドコドコまで貰ひます。」と断ってから少し殘し、皮のみなれば振って見せ、とって帰ったと云ふことなり。竹の内大叔父に聞く。
狼のことは、昭和5年頃、田辺南方熊楠先生に協力、博物学、稗史、説話、傳説、習慣、風習に関して取り調べたることあり。
狼の項は、下記追って著述することにする。 |
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注- |
・葛川谷では、狼のことをオオカメ、カメ、又はヤマタロウと称し、狼の食い残しのことをカメグイと言い習わしている。 |
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・最後の狼-文中では吉野口とあるが、実際は吉野郡旧小川村鷲家口の誤りである。 |
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