今から33年程前、我の幼時から少年期の頃の事、つい家の向かふの山から、友のない一頭の猿の大きい奴が、何日も折々、のこのこ下りて來、河端の岩の平な部分にゆっくり落ち着いて寝てゐたのを覚えてゐる。こちらから何と云ふとも決して恐れない。且つ、利口な事には、若し鉄砲を持つ者が出ると、早速に山の方へ一慌て氣味で帰っていった。