十津川探検 ~瀞洞夜話~
柴巻きタバコの事
   つい数年前まで、いや今でも奥の人にはあるかも知られぬ。柴巻き夕バコの事、これは熊野一帯とも云ふベき習慣であった。樫の葉、第一よいのは椿の広い葉、何れもあまり堅くない葉を用ゆ。新宮などで束として賣ってゐた。店先の老母等よく吸ってゐたものである。若い人、紙巻、煙管の人はあまり用ゐぬが、老人や中年など一度これを用ふると、その味佳なるか、盛んに用ゐられた。葉を焙り、少し色の変はる程度。その時、表面より脂質様のウマニホイするものが出てくると、葉を円錐状に巻き、これにキザミタバコを詰めて、漏斗状のものを作り、点火して細い部分より吸うなり。少し風味あるものにして一服ごとに新たに作るため、大抵の人は持ってゐた。徐々に燃えてくると下手に吸ふと口が熱くなる。そして、歯が汚れやすい。
 歌に云ふ。
 熊野地や 煙管なくとも須磨之浦 青葉くはへて 口は敦盛
 (33、4、5)
注- ウマニホイは、「うまそうな臭い」あるいは「味のよさそうな臭い」の意味か。文中の「吸ふ」は「喫ふ」の意味である。

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