十津川探検 ~瀞洞夜話~
松の木の一重挺のこと
   前記下瀧の長者の家に傳へあり。「万一、家運傾き、重大の時至らんには、奥に祭れる長持ちを縁者會して開けて見るベし」との事なり。或る日のこと、話の如く重大事出で來たりぬ。よりて皆々會合、長持ちを開き見る事になりぬ。あまりに軽しと云ひ、千両箱出で來と云ふ者、さまざまなり。家長が開き見れば、松の木の一重挺〔(天秤棒)・これも挺になるもの少しと云ふ〕出で來たりぬ。皆々茫然たり。
 これは、祖先が初めに塩を求め、天秤棒で肩に担ぎ、東奔西走して財を成した。稼ぐに追ひつく貧乏暇なしも、一度イの一番からやりなおせ、との事。子孫に無言の教訓なり。(玉置川徳田老人より聞く)
注- (2)話「開けずの長持」参照

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