余、10歳位の事である。大沼より筏夫の或る者、筏を駆りて川を下りける。有蔵の辺りまで來し時、ふと岸を見ると一羽の鷹が猪の子に爪を打ち立てたり。逃げようとする子猫を我が物にせんとする鷹、爪を離さない。然るに猪の子は、この鷹には少し大き過ぎた。一生懸命の猪の子は、岩窟それも狭い穴へ入り込んでしまった。見てゐると狭い岩の所で猪の子は、背中の鷹をはらふ為に力一杯擦り上げたから堪らない。鷹は、股から腹を押し潰されたらしく、猪の子の勝利になったと云ふ。
注-
・「慾の熊鷹股裂かす」 当地の諺である。