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現在にては漸次薄れゆく傾向あるも未だ大分殘ってゐるものがある。然し、これとても忘れられてしまふであらう。依って、思ひ出づるまま書き留めて置く。
朝、猿(サル)と云ふ言葉を忌む。
夜、新しく草履を下ろす時は、鍋墨を塗る。
「八日戻り」と云ひ、或る家に外泊して八日目に家に帰る事を忌み、必ず之を避け、止むを得ずんば帰っても近隣に泊まる。(宗教的意義)
青竹を杖にするのを忌む。(葬式、特に彿教よりから來るか)
山には往々にして山の神の木と云ふて伐らざる木あり。常緑の大なる木にて赤き實なると覚ゆ。これは生物たる木を伐りて生活してゆく以上、人間としての良心を現はした善い習慣である。
釣り竿を女が胯げるを忌む。不漁の源となるとて嫌ったもの。
何の由因あって云ふか、男の子二郎が丑の歳てあると、太郎は家に居なくなる。つまり、兄を追い出し、二郎が家にすわると云ふ。人々の説明によると、この地方に色々例はあるやうに見受ける。そこで二郎を他へ里子としてやったりしたものである。
その他に丙午の女、羊の女も他地方の如く嫌はれてゐる。
鉄砲の銃身を洗ふのに水で洗ふと人を撃つ。湯で洗ふと可い。
蛇を指さした時は腐ると云はれ、友人に噛んで貰うと難を避けると云ひ、余の幼時など、よくさうしてもらった。太さを指にて現はすと、同様の理で友人に指を切って貰う真似をしたものである。 |
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(28、6、2) |
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釣り竿を女が跨ぐと漁が少ないと云ひ、伊勢厄と云ひ、時を選ばねば死ぬとて参宮を重視し、納棺の際猫を避け、友引、三隣亡、その他数限りなくあったものであり、今でもまだまだ存してゐる。榎谷の木の端を切るも恐れ(但し、これや山の神の木を恐れるのは良い事)たりする等々。
これ以外、多くのタブーあり。 |
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注- |
「後出の「山の神の祭りと樹の話」参照 |
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・この地ではアオギともヤマノ力ミノキとも言う。特に年数の経った木は山の神さんが休まれるとして伐るのを忌む。肌の白い、榊に似た葉をつけ大木になる。赤い小さい小豆大ぐらいの実である。(ソヨゴのことかクロガネモチのことらしい。) |
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・砥石を跨ぐと割れる。オコその他山道具、特に土方はこれも女が跨ぐのを忌む。 |
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・二郎は次男、太郎は長男のこと。 |
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・指で作った輪の中に指を入れて指の合わせ目を切り離してもらう。 |
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・男女を問わず伊勢へ参ってはいかぬ年齢がある。 |
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・榎谷-田戸の在所の上にあり。 |
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